「AIを使ってみたいが、社内に詳しい人がいない」。中小企業の経営者から、この言葉を聞く機会が増えました。そして多くの場合、その次に続くのは「だから、まず担当者を決めなければ」という話です。
ただ、担当者を一人決めれば動き出すかというと、そう単純でもないようです。公開されている調査を並べてみると、つまずきの場所は「人がいるかどうか」よりも、その人に何をどこまで任せるかを決めていない点にありそうです。
「担当者がいない」のは、例外ではなく標準
中小企業基盤整備機構が2026年3月に公表した「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」では、AI・ITの導入や活用を推進する担当人材について、「特定の担当者はおらず、経営者・現場従業員が個別に推進している」が85.9%でした。専任担当者がいる企業は3.0%、専任の担当部署がある企業は2.3%にとどまります。
85.9%
特定の担当者はおらず
個別に推進
3.0%
専任担当者が
いる
2.3%
専任の担当部署が
ある
つまり、「うちには担当者がいない」というのは、遅れている状態ではなく、中小企業の標準的な姿だということです。ここで焦って専任者を探し始めると、採用市場でも社内でも見つからず、話がそこで止まってしまいます。
意欲がないのではなく、手が足りない
商工中金の調査(2026年3月)では、生成AIの導入を検討している段階の企業で最も多かった課題が「導入を推進する人材がいない」でした。ネオスとひとり情シス協会が実施した中小企業AI活用調査でも、情報システムを一人で担う企業のAI導入率は17%と、担当者が複数いる企業の37%を下回る一方、「AI導入に関心がある」という回答は65%に上っています。
関心はあるのに進まない。導入目的の最多は「人手不足の解消」(71%)で、導入の障壁の上位も「人材不足」(61%)でした。人手が足りないからAIを入れたいのに、入れる手が空いていない、という構図です。
一人に集めると、その人のところで止まる
では、詳しい社員に任せればよいかというと、ここにも落とし穴があります。前出の中小機構調査では、AI導入後の運用課題として「運用担当者の負荷が重い」が29.1%、「従業員による活用が進まない」が28.9%でした。
パーソル総合研究所の調査(2026年2月公表)でも、生成AIを週4日以上使うヘビーユーザーほど、周囲への使い方の指導や支援に負担を感じやすく、そうした教育・サポートが正式な業務や評価に位置づけられていない実態が指摘されています。詳しい人の善意に乗っている状態は、その人が忙しくなった時点で止まります。
決めるのは「人」より先に、三つの枠
そこで当社が現場でお勧めしているのは、担当者を決める前に、経営者側で次の三つを先に決めてしまうことです。
一つめ:時間の枠
週に何時間をAI活用の検討に充てるかを、正式な業務として決めます。ここを決めないと、本来業務が優先され、後回しになりやすくなります。
二つめ:範囲の枠
最初に取り組む業務を一つに絞ります。見積書のたたき台づくり、問い合わせ返信の下書き、議事録の要約など、毎週発生していて、失敗しても取り返しがつくものが向いています。
三つめ:判断の枠
入力してよい情報の範囲、AIが作った内容を誰が確認するか、うまくいかなかったときに誰がやめる判断をするか。この三点を決めておくと、担当者は迷わずに動けます。
この三つが決まっていれば、担当者は「詳しい人」である必要がなくなります。必要なのは、決められた範囲で試し、結果を報告できる人です。
「試す人」と「広げる人」は、分けてよい
パーソル総合研究所は、生成AIの普及にあたって「試す人(試行・型化)」と「広げる人(共有・場づくり)」の役割を分けて任命することを提言しています。同調査では、相談窓口や教育の役割を整え、手順の見直しを続けている「仕組み化タイプ」の企業が43.3%と最も多く、個人の活用成熟度も最も高い水準でした。
一人で全部を担う前提をやめると、候補者は一気に増えます。手を動かして試すのが得意な人と、社内に伝えて巻き込むのが得意な人は、たいてい別の人だからです。
担当者が変わっても、やり方が残るように
もう一つ、後回しにされがちなのが記録です。うまくいった指示の出し方、確認して直した内容、やめた理由。これらが個人のパソコンの中にしかないと、担当者が異動した時点で振り出しに戻ります。
当社は「作業者を判断者へ変える」ことを事業の考え方に置いています。判断の材料が社内に残っていくかどうかが、その分かれ目になります。特別な仕組みは要りません。共有フォルダに一つファイルを作り、試したことと結果を数行ずつ書き足していく。それだけでも、次の人の出発点は変わります。
今週できること
まずは、経営者の側で紙一枚に書いてみてください。
「週◯時間」
「最初の対象業務は◯◯」
「入力してよい情報は◯◯まで」
「確認するのは◯◯さん」
この四行が埋まれば、担当者を決める会話は、探す話から任せる話に変わります。
AI活用でつまずくのは、詳しい人がいないからとは限りません。決める人が決めていない、というだけの場合もあります。当社は、この最初の枠を一緒に決めるところから、導入と定着まで伴走しています。うまく進まないと感じている段階でも、お気軽にご相談ください。
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独立行政法人中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(2026年3月公表/調査期間2025年11月17日〜12月12日、中小企業10,000社対象・有効回答1,668社)
報告書(PDF) / ポイント版(PDF)(2026年8月19日取得)
商工中金「中小企業の景況等に関する付帯調査(2026年3月)」
https://www.shokochukin.co.jp/report/data/assets/pdf/futai202603.pdf(2026年8月19日取得)
ITmedia ビジネスオンライン「人手不足だからAIを使いたい、でも導入できる人がいない 中小企業“一人情シス”の葛藤」(ネオス/ひとり情シス協会「中小企業AI活用調査」の報道、2026年2月24日)
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2602/24/news020.html(2026年8月19日取得)
パーソル総合研究所「生成AIとはたらき方に関する実態調査」(2026年2月3日公表)
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/generative-ai/(2026年8月19日取得)