パートの方や入って数か月の社員に仕事を任せ、手順も教えた。それなのに同じことを何度も聞かれる。逆に、ある時期からぱたりと聞かれなくなった。どちらも落ち着かない状態です。
この困りごとを扱う記事は多く、ほとんどが質問を種類に分けるところから始まります。分け方は役に立ちますが、どれも来た質問の処理の話です。この記事では質問ではなく、返した答えの最後の一言を見ます。
同じことを三度聞かれるのは、覚えていないからとは限りません
先月、請求書の日付の入れ方を聞かれて答えた。今月また同じことを聞かれた。覚えていないのか、と思いたくなります。しかし本人の側に立つと別の見え方があります。一度目の答えが、その一件だけの指示なのか、これからもそうしてよいのか、言葉の中に区別がなかったのです。
区別がなければ、まじめな人は二度目も聞きます。同じにしてよいか分からないまま進めて、後から違うと言われるほうが怖いからです。二度目の質問は記憶の問題ではなく、一度目の返事に足りなかった一言の問題かもしれません。ここを疑わずに「前にもお伝えしました」と返すと、本人は次から聞かずに自己流で進む側へ傾きます。
返事の最後に、二つのうちどちらかを置きます
やることは一つだけです。答えたあと、最後に「今回はこうしてください」か「次からも同じでいいです」のどちらかを足します。これだけで、本人は二度目に聞くかどうかを決められます。
言い方は短くてかまいません。「その形で出してください。次からも同じでいいです」。新しい書類も会議も要らず、受け答えの末尾を変えるだけなので、別の仕事を兼ねていても今日から始められます。
| 聞かれたこと | 一言がない返事 | 末尾に置く一言 | 次に起きること |
|---|---|---|---|
| 請求書の日付 | 月末の日付で | 次からも同じでいいです | 来月は聞かずに出せる |
| 初めての先への返信 | この文面で送って | 今回はこうしてください | 似た場面で相談が入る |
| 在庫の数が合わない | 私に言って | 次からも同じでいいです | 同じ状況で声が上がる |
図のとおり、同じ質問への返事でも、末尾の一言によって行き先が分かれます。「今回はこうしてください」に理由を一つ添えれば似た場面で相談が入り、「次からも同じでいいです」に外す条件を一つ添えれば二度目は聞かずに進めます。
「次からも同じ」と言える答えは、思っているより多いです
末尾に一言を置こうとすると、自分の返事の中身が見えてきます。やってみると、たいていの質問は一回限りの事情ではありません。書類の形式、提出の先、連絡の順番、記入欄の埋め方。来月も同じ条件で起きます。
それでも言い切りにくいのは、例外のときに困るからです。そこは「次からも同じでいいです。ただし相手が官公庁のときだけ声をかけてください」と、外す条件を一つ添えれば足ります。条件を添えるほうが、毎回聞いてもらうより動ける幅は広がります。
「今回だけ」と言うときは、何が今回なのかを添えます
もう一方の「今回はこうしてください」には落とし穴があります。何が今回なのかを言わないと、次に同じ場面が来たかどうかを見分けられず、やはり聞くしかありません。
「今回は」の後ろには理由を一つだけ置きます。「今回は初めてのお客様なので、この文面にしました」。これで二度目からは、相手が初めてかどうかを本人が確かめられます。長い説明は覚えてもらえませんが、条件が一つなら覚えてもらえます。
聞いてよいということは、聞かれる前に伝えておく決まりになっています
短時間で働く方や契約期間の決まっている方については、この順番が法令の側でも組まれています。短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成五年法律第七十六号)第六条第一項は、雇い入れたときに文書などで明示する事項を定め、同法施行規則第二条第一項が、昇給・退職手当・賞与の有無、相談窓口、同法第十四条第二項の規定による説明を求めることができる旨の五つを挙げています。最後の一つは令和八年十月一日から施行された追加分です。
同法は続けて、求めがあったときは説明すること(第十四条第二項)、求めたことを理由に解雇その他不利益な取扱いをしないこと(同条第三項)、相談に応じる体制を整えること(第十六条)を置いています。並べて読むと、質問は来てから処理するものではなく、聞いてよいと先に伝えておくものとして組まれています。なお、これは短時間・有期雇用の方についての規定で、正社員にそのまま当てはまるものではありません。先に伝えておくという扱い方は持ち込めます。当社は社会保険労務士事務所ではありませんので、様式や運用は顧問の社労士にご確認ください。
図のように、法令は「聞いてよいと先に伝える」ところから始まり、説明、不利な扱いの禁止、相談の体制へと順に組まれています。質問を来てから処理するのではなく、先に伝えておく考え方です。
質問が減ったときに見るのは、数ではなく一言の行き先です
末尾の一言を置き始めると、質問は少しずつ減ります。気をつけたいのは、減った数を目安にしないことです。見るのは、「次からも同じでいいです」と言った件と、聞かれなくなった件が重なっているかどうかです。言っていないのに減っているなら、理由は別にあります。
自社でも似たことがありました。毎日の作業に、出来上がった文章へ意図しない文字が混ざっていないかを調べる工程があります。はじめは検出件数をゼロにすることを目安にしていましたが、途中でそれをやめ、見つかった一つずつを「意図して置いたものか」で判定する形に改め、記録に一行残しました。件数を目安にすると、置くべきものまで消してしまうからです。
「次からも同じ」と言えない一言が、手元に残ります
末尾の一言を置いていくと、どちらも置けない質問がいくつか残ります。今回だけとも言えず、次からも同じとも言えない。これは本人の理解の問題ではなく、こちらがまだ決めていないことです。どこまでをその人の判断にしてよいかが決まっていないので、言い切れないのです。
残ったものは、その場で返さず手元に書き留めます。三つ四つたまったところで並べると、たいてい同じあたりに集まります。そこが、任せる範囲をもう一段広げるときに先に決めておく箇所です。質問の一覧ではなく、末尾を置けなかった一言の一覧が、次の段取りの材料になります。
置けない一言がたまって、その先の決め方で迷ったときは、一度ご相談ください。何を決めれば一言が置けるのかを、一緒に考えます。
よくある質問
- Q1. 同じ質問を何度もされるのは、相手が覚えていないからではないのですか。
- A1. そういう場合もありますが、一度目に返した答えが「その一件だけの指示」なのか「これからもそうしてよい」のかが言葉に入っていないと、本人には区別がつきません。前と同じにしてよいか分からないまま進めて後から違うと言われるほうが怖いので、まじめな人ほど二度目も聞きます。
- Q2. 「次からも同じでいいです」と言い切ってしまって、例外が出たときに困りませんか。
- A2. 外す条件を一つだけ添えれば足ります。「次からも同じでいいです。ただし相手が官公庁のときだけ声をかけてください」という形です。条件を添えるほうが、毎回聞いてもらうより動ける幅は広がります。
- Q3. どちらの一言も置けない質問が出てきたときは、どうすればよいですか。
- A3. その場で本人に返さず、手元に書き留めておきます。それは本人の理解の問題ではなく、どこまでをその人の判断にしてよいかがまだ決まっていないということです。三つ四つたまったところで並べると、たいてい同じあたりに集まっており、任せる範囲を広げるときに先に決めておく箇所が見えます。
どちらの一言も置けない質問が手元にたまってきたら、何を決めればよいかを一緒に考えます。
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出典一覧
短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成五年法律第七十六号)第六条第一項・第十四条・第十六条/e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/405AC0000000076 (2026年10月19日取得)
短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律施行規則(平成五年労働省令第三十四号)第二条第一項/e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/405M50002000034?occasion_date=20261001 (2026年10月19日取得)
厚生労働省「同一労働同一賃金特集ページ」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144972.html (2026年10月19日取得)
厚生労働省リーフレット「パートタイム・有期雇用労働者に関するルールが変わります(令和8年10月1日施行)」 https://www.mhlw.go.jp/content/001698010.pdf (2026年10月19日取得)