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COLUMN

「AIを入れたのに楽にならない」という声は、
増えた確認に何分配ったかの話かもしれません

公開日: カテゴリー:AI活用

ノートパソコンの画面と資料を見ながら、二人で内容を確かめている様子
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「せっかく入れたのに、現場が使ってくれない」。AIの導入が止まったときの報告は、たいていこの形で上がってきます。けれども、その言葉のすべてが気持ちの問題とはかぎりません。作業が減った人と、確認が増えた人は、同じ人ではないからです。

「使ってくれない」という報告の下で、増えていたもの

「せっかく入れたのに、現場が使ってくれない」。AIの導入が止まったときの報告は、たいていこの形で上がってきます。そして次の議題は、説明が足りなかったのか、研修をもう一度やるべきか、になりがちです。

ところが、止まった工程をたどると、現場で起きていたのは反対ではなく、別の作業が増えていたという事実であることがあります。AIツールを業務で使っている開発エンジニア百八名への調査では、七割を超える人が「導入後に新たに発生した、または増加した業務がある」と答えています。その中身の上位には「出力のレビュー・品質担保」が入り、変化として「業務量が増えた」を挙げた人も半数近くいました。

職種はかぎられた調査ですが、起きていることは単純です。作る時間が減ったぶん、確かめる時間が増えています。

反発の言葉は、二つに分けて聞く

「これは信用できない」「現場では使えない」という言葉を、気持ちの話として受け取ると、打ち手は説明と研修に向かいます。もう一つの読み方があります。その人の手元で何が増えたのかを聞くことです。

質問の形を変えるだけで分かれます。「どう思いますか」ではなく、「この一週間、これに関して何に時間を使いましたか」と聞きます。

返ってくる答えは、たいてい二通りに分かれます。「特に何も。使っていません」という答えなら、まだ手が付いていない段階です。もう一方は、「読み直している」「元の書類と突き合わせている」「おかしいところを探している」という答えです。

後者のように作業の名前が出てくるなら、それは気持ちの問題ではなく、時間の配分の問題です。前者なら対話が効きますが、後者は対話では解けません。何分配るかを決めないかぎり、同じ反発がまた出ます。

現場から出た言葉を、二つに分けて聞く 現場から出た言葉 「特に何も。使っていません」 まだ手が付いていない → 対話が効く 「読み直している」「突き合わせている」 確認が増えている → 時間の配分の問題 現場から出た言葉を、二つに分けて聞く 現場から出た言葉 「特に何も。使っていません」 まだ手が付いていない → 対話が効く 「読み直している」 「突き合わせている」 確認が増えている → 時間の配分の問題

図:現場から出た言葉は、二つに分けて聞けます。「特に何も。使っていません」なら、まだ手が付いていない段階で、対話が効きます。「読み直している」「突き合わせている」なら確認が増えている状態で、時間の配分の問題です。

増えた確認は、たいてい別の人の手元に移る

もう一つ見落としやすいのは、作業が減った人と、確認が増えた人が同じではないことです。下書きが速く出てくるようになると、「作ったので見てください」が増えます。従業員三十名から三百名ほどの会社では、その宛先が社長や数人の責任者に集まります。現場は確かに楽になり、確認する側だけが忙しくなります。

全国の中小企業一万社を対象にした公的機関の調査では、効率化が難しい業務として「人の判断が必要な業務」を挙げた割合が約七割にのぼりました。判断は残ります。残った判断は、誰かの時間を使います。

つまり、導入の効果を作業時間の削減だけで見ていると、増えた側が記録に残りません。削減された時間は担当者の手元で測られ、増えた時間は別の人の手元に現れるので、同じ表には並びません。

書類を手にした社員三人が、責任者の机の前に並んで確認を待っているオフィスの様子

写真:書類を手にした社員が、責任者の机の前に並んで確認を待っています。「作ったので見てください」が増えると、確認待ちのものは社長や数人の責任者の手元に集まります。

分子と分母を一つずつ置く

件数を実時間で割る 一日にAIが 出す件数 ÷ その確認だけに 使える実時間 (兼務の時間を引いた分) = 一件あたりに 配られている秒数 この秒数で、確かめるべき項目を見終われるか 件数を実時間で割る 一日にAIが出す件数 ÷ その確認だけに使える実時間 (兼務の時間を引いた分) = 一件あたりに配られている秒数 この秒数で、確かめるべき項目を 見終われるか

図:一日にAIが出す件数を、その確認だけに使える実時間(兼務の時間を引いた分)で割ると、一件あたりに配られている秒数が出ます。その秒数で、確かめるべき項目を見終われるかを確かめます。

確認に時間が配られているかは、割り算で確かめられます。

分子は、その業務でAIが出す件数です。一日に何件か。分母は、確認担当者がその確認だけに使える時間です。ここが落とし穴で、電話対応や修正入力を兼務しているなら、兼務のぶんを引いた実時間で数えます。名目の勤務時間を入れると、計算そのものが意味を失います。

分子を分母で割れば、一件あたりに配られている秒数が出ます。そのうえで自分に向ける問いは一つです。その秒数で、確かめるべき項目を見終われるか。

見終われない数字が出たとき、担当者が手を抜いていたことになるわけではありません。与えられた時間のなかで、こなせる形に収めていただけです。

見終われないと分かったら、三つのうちどれかを選ぶ

打てる手は三つです。確認に使える時間を業務量として足すか、AIに処理させる件数を絞るか、全件を人が見る前提をやめて、金額や新しい取引先や初めて見る書式といった条件で確認対象を選び直すか。

どれを選んでも構いません。選ばないまま「最後は人が確認します」と言い続ける状態だけが、残してはいけない形です。工程があることと、工程が働いていることは別で、後者は書類では確かめられません。

そして、この三つはいずれも現場では決められません。件数を絞るのも、時間を足すのも、見る範囲を狭めるのも、業務の割り振りを決める側の判断です。反発が現場から出ているのに、答えが現場にないのは、ここが理由です。

当社で残している一工程

当社では毎日コラムの下書きを作っていて、文章の組み立てとファイルの体裁づくりはAIに任せています。ただ、出来上がったファイルをそのまま保存せず、いったん別の形式に変換して、表が載っているページを目で開く工程を残しました。全ページではなく「表のページだけ」と決めてあります。

この範囲にしたのは、毎回通せる量にしておきたかったからです。実際にこの工程で、表の列の幅が潰れて中身が表示されなくなる不具合に気づきました。文字は読めていたので、本文だけ見ていれば気づけませんでした。

見る工程を残したから分かったのではなく、見る範囲を狭めて毎回通る量にしたから分かった、という順番です。

机の上に置いた表のページを、指でなぞりながら一行ずつ確かめている手元

写真:表が載っているページだけを取り出して、指でなぞりながら確かめています。見る範囲を狭めて、毎回通せる量にしてあります。

説明会をもう一度開く前に

説明や研修が無駄だという話ではありません。順番の話です。増えた確認に時間が配られていない状態で説明を重ねると、それは「やる気の問題として片づけられた」と受け取られます。先に割り算をして、配る時間を決めたうえで説明すると、同じ内容が別の意味で届きます。

反発していた人が「それなら使えます」と言う場面は、新しい機能が足されたときよりも、見る範囲が決まったときに出てきます。

よくある質問

Q1. 現場の反発が、気持ちの問題なのか時間の問題なのかを見分ける方法はありますか。

A1. 「どう思いますか」ではなく、「この一週間、これに関して何に時間を使いましたか」と聞いてください。「特に何も。使っていません」という答えなら、まだ手が付いていない段階です。「読み直している」「元の書類と突き合わせている」のように作業の名前が出てくるなら、気持ちの問題ではなく時間の配分の問題です。

Q2. 確認に時間が足りているかどうかは、どう確かめればよいですか。

A2. 一日にAIが出す件数を、その確認だけに使える実時間で割ります。実時間は、電話対応などを兼務しているならその分を引いて数えます。出てきた一件あたりの秒数で、確かめるべき項目を見終われるかを自分に問います。

Q3. 見終われないと分かったら、何をすればよいですか。

A3. 打てる手は三つです。確認に使える時間を業務量として足すか、AIに処理させる件数を絞るか、全件を人が見る前提をやめて、金額や新しい取引先や初めて見る書式といった条件で確認対象を選び直すかです。いずれも業務の割り振りを決める側の判断になります。

どの工程をAIに渡すかを考えている段階なら、そこで増える確認の量も先に見積もれます。渡す範囲と、増える確認を誰の時間に足すかを一緒に数えておきたいときは、お問い合わせからご相談ください。

渡す範囲と、そこで増える確認を、一緒に数えてみませんか

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出典一覧

株式会社TWOSTONE&Sons「【AI活用エンジニア108名調査】"AIに仕事を奪われる"は本当か」(2026年5月21日公表、PR TIMES) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000359.000015060.html (2026年10月2日取得)。インターネット調査、調査期間2026年5月7日〜8日、有効回答は直近6か月以内にAIツールまたはAIエージェントを開発業務で使用している開発エンジニア108名。新たに発生・増加した業務が「ある」72.2%、その内訳で「AI出力のレビュー・品質担保」38.5%、業務の変化として「業務量が増えた」46.2%。対象が開発エンジニアに限られるため、他職種への一般化は避けています(要複数ソース確認)

独立行政法人中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(2026年3月公表) https://www.smrj.go.jp/research_case/questionnaire/fbrion0000002pjw-att/202603_AI_report.pdf (2026年10月2日取得)。全国中小企業10,000社へのWebアンケート、調査期間2025年11月17日〜12月12日。効率化が難しい業務は「人の判断が必要な業務」が約7割

松岡誠一郎「1件18秒の『人間確認』─ 承認ボタンは儀式になっていた」note(2026年7月26日公開) https://note.com/datalyst_ai/n/n4584134884fd (2026年10月2日取得)。件数を確認に使える実時間で割るという考え方を参照しています(要複数ソース確認)

菅原崇文「AIで仕事が速くなるほど、現場の管理職が疲弊する理由」マイベストプロ(2026年8月3日公開) https://mbp-japan.com/okinawa/blueleaf/column/5231042/ (2026年10月2日取得)(要複数ソース確認)

ZDNET Japan「AI導入で減る仕事と増える仕事--開発現場で始まる役割転換」(2026年7月21日) https://japan.zdnet.com/article/35250653/ (2026年10月2日取得)