「あの人が休むと回らない」。経理も総務も受発注も、一人で持っている担当者がいる会社は少なくありません。本人も周りも、休ませたいとは思っています。そこで業務を洗い出し、マニュアルを作り、サブ担当を決める。それでも休みの日が近づくと、本人が「やっぱり出ます」と言う。
理由は大きく三つあります。休み中に何が起きるかを、仕事の中身で考えていること。取引先とのやり取りや経緯が、担当者の頭の中にしかないこと。そして、管理ファイルがどこにあるのか、担当者にしか分からないことです。この三つを順にほどいていきます。
自分から始める仕事と、相手が待ってくれない仕事
一人担当の仕事には、二つの向きがあります。
一つは、担当者が自分から始める仕事です。月次の集計、書類の整理、仕入先への発注、社内の資料づくり。担当者が休めば止まりますが、誰からも催促されません。休み明けに始めれば、多くは間に合います。
もう一つは、相手が待ってくれない仕事です。取引先からの電話、請求書や注文のメール、届く郵便、そして支払日や締め日のような期日。担当者が休んでいても、これらは休みの日に普段どおり届きます。
休めないと感じる理由の大半は、後者にあります。前者はどれだけ難しい仕事でも、休みの前後にずらせば済むからです。
図:一人担当の仕事には二つの向きがあります。集計・整理・発注・資料づくりのような自分から始める仕事は、休みの前後にずらせます。電話・メール・郵便・期日のような相手が待ってくれない仕事は、休みの日にも届きます。
相手が待ってくれない仕事は、入口の数で数える
そこで、仕事の一覧を作る前に、相手が待ってくれない仕事が入ってくる入口を数えます。たいていの会社では、四つほどに収まります。
- 電話(代表番号と、担当者の携帯)
- メールとFAX(担当者個人宛てのアドレスを含む)
- 郵便と宅配
- 期日(支払日、請求の締め、給与計算、役所への届出)
業務の洗い出しから入ると、項目は数十から百を超え、書き終わる前に本人が疲れてしまいます。入口なら数個です。
見落とされやすいのは、担当者個人につながる入口です。長年の取引先ほど、担当者の携帯や個人宛てのアドレスに連絡してきます。休みの前に、メールには代わりの連絡先を返す自動返信を設定し、主な取引先には一言伝えておきます。届いたものが会社の側の入口へ流れるだけで、休み中に本人の携帯が鳴る回数は減ります。
受け取っても答えられないのは、情報が一人の中にあるから
入口ごとに受け取る人を決めても、それだけでは休めません。電話に出た人が「その件は、担当が戻りましたら」としか言えないからです。
止まる原因の一つ目は、やり取りの経緯が共有されていないことです。「この取引先には月末締めで納めると約束している」「この件は先週、納期の相談を受けている」。こうした取り決めは、担当者の頭の中か、個人宛てのメールの中にしかありません。
二つ目は、管理ファイルの置き場所です。納期の一覧、見積の控え、取引先ごとの条件表。どれも作ってあるのに、担当者のパソコンの中や、本人にしか分からない名前のフォルダに入っていて、どれが最新版かも本人しか知らない。代わりの人は、答えの載ったファイルがあることすら知りません。
ただ、すべてを共有しようとすると、休む前の準備がまた膨らみます。共有するのは、相手が待ってくれない仕事に答えるのに要る分だけで足ります。
入口ごとに決めるのは三つだけ
一つ目は、誰が受け取るか。電話には誰が出るか、個人宛てのメールは誰に転送するか、郵便は誰が開けるか。
二つ目は、どこまで答えてよいか。「納期の問い合わせは、一覧を見て答えてよい」「金額に関わる話は、聞いて記録するだけにする」のように、答えてよい範囲と、預かるだけの範囲を分けます。
三つ目は、答えるときに見るファイルの置き場所です。答えてよい範囲に対応するファイルだけを共有の場所へ移し、どこにある何という名前のファイルかを一行書いておきます。取引先との取り決めも、そのファイルに一行ずつ書き足していけば、経緯は少しずつ一人の頭の外へ出ていきます。
期日だけは性質が違います。休みの前に済ませるか、休み明けでも間に合うかを、カレンダーで先に確かめます。
図:電話、メールとFAX、郵便と宅配の入口ごとに、受け取る人・答えてよい範囲・見るファイルの置き場所の三つを書き込みます。期日の行だけは、休みの前に済ませるか、休み明けで間に合うかを決めます。
自分から始める仕事は、止めておいてよい
こう分けると、担当者の仕事の大半は、休みの間は止めておいてよいことになります。サブ担当に全部を覚えてもらう必要はありません。週に二日だけ来ているパートさんでも、受け方と、見るファイルと、預かった内容を書き残す場所が決まっていれば、入口の受け手は務まります。
手順書は、そのあとで構いません。一度休んでみて、受け取った人が困った箇所から書けば、書く量も少なく済みます。
写真:電話を受けた人が、共有フォルダのファイルを見ながら、預かった内容をノートに書き残しています。受け方と見るファイルと書き残す場所が決まっていれば、入口の受け手は務まります。
休ませるのは、会社の側の仕事でもある
休めない状態は、本人の気持ちの問題として扱われがちです。けれども労働基準法の改正により、2019年4月から、年10日以上の年次有給休暇が与えられる労働者には、年5日を確実に取得させることが使用者に義務づけられました。対象には管理監督者も含まれ、一人担当だから例外にはなりません。
一方で、人はすぐには増やせません。帝国データバンクの2026年7月の調査では、正社員が不足していると答えた企業は51.3%でした。人を足すより、今いる人が入口を受け取れるようにするほうが、先に手をつけやすいはずです。
自社で起きたこと
このコラムの下書きは、毎日決まった時刻に自動で作られ、社内の共有フォルダに保存されます。作る手順は、人が見ていなくても毎日同じように回ります。
止まりかけたのは、保存先のフォルダが別の場所へ移された日でした。それまでの保存先が見つからなくなったのです。その日は移動先を探し直して保存まで終え、探し直し方と新しい置き場所を記録に残しました。手順があっても、ファイルの置き場所が分からなければ仕事は止まる。置き場所を書き残しておく意味を、あらためて確かめた出来事でした。
入口の紙を一枚つくる
一人で仕事を持っている方と、一時間だけ時間を取ってみてください。相手が待ってくれない仕事の入口を書き出し、入口ごとに受け取る人、答えてよい範囲、見るファイルの置き場所を一行ずつ書く。それだけで、次の休みを予定表に入れられるかどうかが見えてきます。
よくある質問
Q1. 一人担当を休ませるには、サブ担当に仕事を全部覚えてもらう必要がありますか?
A. 必要ありません。休みの間に困るのは相手が待ってくれない仕事だけで、担当者が自分から始める仕事は休みの前後にずらせます。サブ担当に渡すのは、入口ごとの受け取り方と、答えてよい範囲だけです。
Q2. 「相手が待ってくれない仕事の入口」とは、具体的に何ですか?
A. たいていの会社では、電話(代表番号と担当者の携帯)、メールとFAX(担当者個人宛てのアドレスを含む)、郵便と宅配、期日(支払日、請求の締め、給与計算、役所への届出)の四つほどに収まります。
Q3. 担当者の管理ファイルは、全部共有フォルダへ移すべきですか?
A. すべてを共有しようとすると、休む前の準備がまた膨らみます。共有するのは、相手が待ってくれない仕事に答えるのに要る分だけで足ります。答えてよい範囲に対応するファイルだけを共有の場所へ移し、どこにある何という名前のファイルかを一行書いておきます。
入口の書き出しから、見るファイルの置き場所の整理まで、一緒に進めることもできます。
入口の書き出しと、ファイルの置き場所の整理から始められます
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出典一覧
厚生労働省「年次有給休暇の時季指定」働き方改革特設サイト(https://hatarakikatakaikaku.mhlw.go.jp/salaried.html)2026年9月28日取得
厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」(https://www.mhlw.go.jp/content/001140963.pdf)2026年9月28日取得
株式会社帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年7月)」(https://www.tdb.co.jp/report/economic/20260817-laborshortage202607/)2026年8月17日公表、2026年9月4日取得